新年

学級日誌 2011年1月4日 花瀬谷 タカフミ

今日の疑問
新年早々、国後くんが巨大なお爺さんを背負って登校してきた。
教室に入ってきた国後くんをみて、クラスの皆はワーッと歓声を上げたけれど、
国後くんの憔悴しきった表情があまりにもあまりにだったんで、すぐにシーンとしてしまった。
国後くんは、お爺さんを下ろすのにすごく苦労している様子だった。
フウフウと汗だくになりながら、ようやくお爺さんを床に下ろすと、
隣の席の大吟醸さんが、「ああ、もうこれじゃあ歩きにくくて堪らないわ」と
顔を真っ赤にしながら得意のそろばんをパチパチやりはじめたので、国後くんは
恐ろしくなってしまって、お爺さんの白シャツの背中一面に謝罪の意を表すゲルニカ
を書き始めたので、またクラスの皆が「ヨッ!油絵キッズ!」「新春ネオリアリズム!」
などと囃し立て、大騒ぎになってしまった。
そうこうしている間も、お爺さんはむっつりと黙っておとなしくしていたが
国後くんがビリジアンを落とすたびに、その体が小刻みに震えだすので、国後くんは
そのつど、お爺さんの背中を掌打し大人しくさせなくてはならなかった。
ゲルニカが完成すると同時に始業のチャイムがなり、オーモット先生が入ってこられ、
床にうつ伏せになっているお爺さんを差し、「国後、そのゲルニカっぽいお爺さんはなんだ」と激しく質問をした。
国後くんは、何事もなかったように「は?なんです?ゲルニカって?」とシラを切ったけれど、
彼は嘘をつくときに、おでこにユダヤの紋章が浮かび上がるので、先生にはすぐにばれてしまった。
「学校に関係のないものを持ってくるなといっているだろう!」
先生は激怒しながら、お爺さんを蹴っ飛ばそうとした瞬間、お爺さんからまばゆいばかりの光があふれ出し、
教室中を白い光で包んだ。
僕はまるでまぶしくて目を瞑ってしまいそうだったけれど、今起きていることを後世に伝えるべく、
薄目でがんばったが無理だったので、ここから先は伝え聞いたことをそのまま記したいと思う。
お爺さんはゆっくりと宙に浮かぶと、光を纏いながらそのまま開け放たれていた窓を通って
国道7号線を南下し、途中、パーキングエリアで休憩をとりつつ、上空へ姿を消したそうだ。
立ち寄ったパーキングエリアの駐車場のトラックが「アリガト」という言葉に並べられていたともいうが、
これは噂の域を出ていない。

ともあれ、お爺さんが飛び立ってから数時間後、僕は国後くんに誰もが知りたがっているであろう
疑問をぶつけてみた。
「あのお爺さんはいったい誰なのだい?」と。
しかし国後くんは暗い顔で「朝、家を出て歩いていたらくっついてたんだ」といい、
「新年早々、ついてないや」とふてくされてしまった。
オーモット先生は、光を浴びたあと、自分を鹿だと思い込んでしまったらしく、
ケーン!」とと一声叫ぶと、裏山すっ飛んでいってしまった。
「おーい、これじゃあ授業にならないよ!」誰かがそう叫ぶと「勉強する気なんてないくせに!」
と皆が笑った。
国後くんも笑っていた。
一方、大吟醸さんは、お爺さんの発した放射能の影響で死亡していた。