永年小品

こんにちは、夏になると思い出す遥かな尾瀬、ディアハンター(のクリストファーウォーケンがプロシアンルーレッツをする顔)。
ということで、懐メロでしんみりと夏のご挨拶です。

さて、夏と申しますともうひとつ思い出すことがあります(ディアハンターのデ・ニーロではありません)。
私の住む町には、有名なおじさんが住んでいました。
あれはまだ中学生のころ、最もヤンチャ(ムースをつけてみたり、万引きを肯定してみたり)な年頃です。
そんな私でしたから、周りにもそういった極上のワル(香水を学校帰りに噴霧したり、自転車のハンドルを過度に上げてみたり)たちが集まっていました。
日常生活での悪行は数えられず、自分の住む町でもやりたい放題壊したい放題のハリケーンのような生活を送っていたのです。

うだるような夏の午後、学校帰りの我々(ソーセージズ)はワル仲間の頭(カシラ)的存在であったO君の一言からとんでもないことをしでかしてしまいました。
我々の毎日の下校ルートには、地主の所有する謎の梨園があり、それをぐるりと囲むように謎の木壁が設置されていました。
私たちのような極ワル達から梨を守る名目なのでしょう、我々は毎日壁を見上げては「梨食いてぇな」と空輸されてきたばかりのヤギよろしく立ちはだかる壁の前でため息をついていたのでした。
その日も我々はだんだんと見えてくる壁をなんとはなしに眺めつつ「アマレスラーのタイツで登校しろといわれたらどうするか?」などの話をしながら歩いていました。
「あの壁ぶっこわすべや」
なんというワル、O君の言葉に我々はただただ驚愕するばかりでした。
O君を除く我々3人は、「これを断ったら、確実に明日から変なアダ名をつけられる!」と心の中で叫びました。
それほど、当時のワルの結束は強かったのです。
O君の意思に賛同しているということを表すために、我々は壁を壊すために有効そうな石やトンカチ状の何かを必死で探すフリをしました。
しかし類人猿のごとくウロウロする我々を尻目に、O君は奇声を上げ、ドッカンドッカンと壁を殴り始めました。
「アチョップ!」ドガ
「マウマウ!」ドガ
嬉々とした表情で木壁を破壊していくO君。おびえる我々。
「何してるんだ!」
そんな異様な空気をO君の奇声以上の大声が切り裂いたのです。
振り向くとそこには、一見すると休日のゴルファー、よく見ると青木功のようなポロシャツを着たおじさんが山菜の入ったビニール袋片手に仁王立ちしていました。
一瞬後、「怒られる!」と悟った我々は脱兎の如く駆け出していました。その速さは時空を超え、遥かイスケンデルに到着しそうな勢いでしたが、私だけは持ち前の食いしん坊が祟り、脱兎というよりも脱豚のような感じでした。
逃走劇から一時間ほど経ってから私はバラバラに逃げた皆と落ち合いました。
彼らから話を聞くと、おじさんに捕獲されたO君は、両手を高く上げ柔道選手のように威嚇された瞬間に「すいませんでしたっ」と深々と頭を下げたそうです。
おじさんから許され、ものすごい速さですっとんで帰ってしまったO君の後姿はとても小さかったと、仲間のひとり(自宅でかくれんぼをされるのが日課)が呟いたのが印象的でした。
その後、我々はO君に落胆するとともに、彼の壊した壁を抜け思う存分梨を食い荒らしたのでありました。