いなかの、事件

6日 正午頃、T県F市の平屋建て建築物に住むAさん宅の呼び鈴が激しく鳴った。
夜勤明けで睡眠中だったAさんが朦朧とする頭で玄関の覗き穴を覗くと、「開けろ、俺は卵焼きだ」などと叫びながらドアを激しく叩く身長1メートル70センチほどの黄色い物体がみえた。
その黄色さに動揺を隠し切れなかったが、暴れ黄色の容姿が子供の頃に母親に作ってもらったものに酷似していたため、思わずドアを開けてしまった。
以下は部屋に通したあとの卵焼きに対するAさんの証言である。

「部屋に通してみると意外に黄色くないんですね。光のあたり具合もあるんでしょうけど。あと、全身から湯気が立っていて"出来たてだな"と思いました」

ソファを薦め、しばし談笑したあと、Aさんがプライベートの悩みを打ち明けると卵焼きの形相が変わった。
「ようし、じゃあ俺が人肌脱いでやろう」
この34年間、悩み事を相談する相手のいなかったAさんは、黄色の言葉に思わず心が震えた。
しかし、自らの黄色い皮を脱ぎすてた目の前の赤い塊にAさんは驚きを隠せなかった。
「ええ、チキンライスだったんですよ。」
我々の前でガックリと肩を落としたAさんは更に続ける。
「卵焼きだなんて甘い言葉に乗った僕がいけなかったんです、まさか彼がオムライスだったなんて」
オムライスは、Aさんの視線に気づき、「しまった!」という顔をしたが、「警察を呼びます」というAさんの言葉には素直に頷いた。
オムライス容疑者は、取調べで「息子達が自分の殻に閉じこもったまま出てこないのでムシャクシャしていた」と述べ、更に、「卵焼きはお弁当に入ったり、子供の人気者なのにオムライスはただの一品料理という認識。誰かの役に立ちたかった」
などとわけのわからないことを主張しているため、余罪があるとして今後も追及していく方針。