プロレス人 2

こんな風に蒸し暑い日だった。
夕飯をすませ祖母の部屋で縁側に足を放り出して外を眺めていた。
祖母の部屋は風通しが良く、夏でも気持ちが良かった。
床の間に20センチほどの古臭い壷がちんと置かれている。
祖母の部屋には何度と無く訪れていてその壷の存在も知ってはいたが、なんとなく聞きそびれていた。
「その壷、なに」
食べ終わったスイカの皮を弄びながらなんとなく質問をすると、祖母は少し間を置いてからこんな話をはじめた。

祖母がこの土地に来て間もなくの事だというからもう30年以上前になるだろうか。
まだまだ家の周辺は山や森が多く残っていて、祖父が亡くなりあまり裕福とはいえなかった祖母は森にわけいり良く山菜を採ってその日のおかずにしたそうだ。
ある夏の日の事だという。
祖母がいつものように籠を背負って山に入り、ノビルの茂る所まできた。
よっこいしょ、と腰をかがめると目の前の空気が丁度、道のように分かれて見えた。
"はあ、なんだろうか"と少し訝しんだがそのまま山菜を摘みにかかった。
するとその足元に何かが纏わりつくという。
夏の夕方だというのに、やけにひんやりとした空気が足元に絡み付いてくるのだそうだ。
「ああ、これは」
祖母は悟ったそうだ、そしてモンペのポケットからおやつに入れておいた甘納豆を出して山菜を採った場所に置いた。
足元に絡みつく感覚はすぐに消えたという。

「おばけかな?」
後ろに体を倒して訊いた。真新しい畳の匂いがフワッと鼻をくすぐる。

「何様じゃあっていうのもわからんけど、人間じゃない何かだろうねえ」
「怒った人様には言葉で謝りゃあいいが、そうはいかんもんもある。時には口をつぐんどったほうがいい時もあるわ」
「怒ってる時は黙って何かをあげればいい」
そういって祖母は床の間の壷をしげしげと見た。
縁側の風鈴がチリン、と涼しげな音を立てた。風は、無い。
何かが縁側を通り抜け、床の間にしばらく留まってから気配が消えた。

いかんとも納得しがたい様子の僕の顔をチラッとみて祖母はうんうんとひとりで頷くとお茶を啜った。
壷の中身は今でもわからない。


溶けかけミッシングリンク

アイス・山下・木下

1920年生まれのレスラー

いまだ現役でリングにあがる恐ろしい精神力と体力の持ち主。
だが、流石に寄る年端には逆らえず、入場シーンからヘリで輸送(ストレッチャー)されてくるのでははなはだ迷惑だとか。
本人は「武藤も高田もまだヘリはつかったことないだろ?」と得意満面。
また、年齢を考慮してか、彼に対しては特別ルールとして「早起きしたほうが勝ち」のクイック式の試合が組まれている。
それにも関わらず、毎回危険を冒してまで入場してくるところに彼のレスラー魂をみるという者と、「ただ単に徘徊してるだけなんでは?」という痴呆説をあげるファンとで意見が分かれている。
試合終了後の喘息マイクパフォーマンスは概ね人気だが装着している呼吸器により観客は殆ど聞き取れていない。

レスラーとしてはダイナミックな試合よりも駆け引きを得意とし、"食べたくせに「メシはまだか?」攻撃"や、「住所の書かれたプレート(凶器)」相手が死ぬほど驚く"仮死"などの文字通り老獪な試合スタイルが特徴。
スリーパーホールドが大の苦手。

ネーミングの2つの苗字は、長年のレスラー生活により「自分がなんて姓だったか忘れた」ことに由来するものである。
ファンからは親しみを込めて「おじいちゃん」と呼ばれている。

アイス・山下・木下の主な技

・背中を流してくれ(自らバックを取らせて懇願する)

・アイスが食いたい(わがまま)

・やっぱりウナギがいい(アイス〜からの連携技(わがまま))




ミリオンダラーマン

テッド・デビアス

1951年生まれのプロレスラー。オクラホマ出身

195センチ115キロ

父もレスラーでアイアンマンの異名を取った"マイク・デビアス"。

日本ではおもに全日本で活躍。
アメリカでの実績もさることながら、93年に当時無敵を誇ったスタンハンセンとタッグを組んで全日本の象徴ベルトのひとつ
"世界タッグ"を田上&川田組から奪取した。
金髪にヒゲ、な強面のくせに巧みなレスリングを得意とした。
海外では金持ちキャラクターとしてブレイク。そのキャラクターとして来日も果たしている。
個人的にはディンゴ・ウォーリアー(アルティメットウォーリアー)戦でプロレス下手なウォーリアーをなんとか勝たせようと必死になっている様が印象深い。

ハンセンの陰に隠れ地味な印象だが、後年、神父に転職したりして私生活では目立った活躍をしているようである。
80年代のWWFブームに一役買った渋いレスラー。


テッド・デビアスの主な技

・ミリオンダラーバスター(コブラクラッチ式のかわず落し)

・ミリオンダラードリーム(コブラクラッチ)

・フライングフィストドロップ(デビアス式と呼べるくらいの完成度を誇る)

・パワースラム


ファイプロでの名前】
ミリオンダラー・デイビス

東洋の神秘
ザ・グレート・カブキ

1948年生まれ 
主な所属団体に全日本プロレス、SWS、WAR
現在は「ちゃんこ料理の店 かぶき」を経営している。

1980年代アメリカにおいて歌舞伎のメイクを施したギミックレスラーとして活躍。しかし良く見ると緑と黒を基調にした配色のためあんまり歌舞伎っぽくない。
おどろおどろしい入場とヌンチャクパフォーマンスは後の女子プロレスラー"ブル中野"に引き継がれたというのはあくまでも噂である。
また、口から何色かの毒霧を吹くのもカブキの定番ムーブであり、後にアメリカで活躍する事になる日本人レスラー(怪奇派)はお約束のようにこの技を使用するようになった。
アンコ型で筋肉質ではないいわゆるプロレス体型だったが、インサイドワークの巧さと独特の試合の間は職人芸と言ってよいほど。
全日本時代がレスラーとしてのピークかと思われがちだが、新日本で平成維新軍に在籍していたベテラン時代の方が個人的には好きである。
"カブキの息子"という触れ込みでWWFで大ブレークしたグレート・ムタとも対戦しており、その時の「割れた額から血をピューと吹き上げる」シーンは今もファンの間でマンガ、"プロレススターウォーズ"の「高千穂は死んだのだーッ」の名セリフとともに愛されつづけている(僕だけ)

余談だが、某飯田橋にあるカブキのちゃんこ店の前を高速で何往復もしたにもかかわらず、店内のカブキ(素顔)にまったく気づいてもらえなかった僕はあまりにも哀れだといえよう。


ザ・グレートカブキの主な技

・アッパーカット(ドリーファンクやカシンっぽい片膝をついて打つタイプ)

・毒霧(赤,緑)

・トラースキック(必殺技)

・ジャンピングフィストドロップ

晩年はパワーボムを必殺技としていた。