押絵と旅する男

ということで、近所のBOOKOFFのタイムセール(文庫本2冊で500円)で購入した「押絵と旅する男/江戸川乱歩」を叩きつける雨音をなんとはなしに聞きながら読み返してみました。

最初にこの奇妙な作品を読んだのは小学生か中学生の頃だったと思うんですが、読み進めていくうちに覚えていたストーリーとかなり食い違っていることに驚きました。
"押絵と旅するのが主人公じゃなかったか?”
とか
”伊豆じゃなくて魚津か”
とか。
中学生の頃に感じた、蜃気楼か白昼夢のような揺らぎが頭の中を支配する。

兎も角、10何年も前に受けた衝撃と同じくらいの衝撃を受けました。

白黒というよりもセピア色に支配された車内で、静かに浮かび上がる白昼夢のような、それでいて緊張感をはらんだ2人の男の会話。ごく短いやりとりが、粘こい空気とムシムシする車内を想起させシンクロしてくる。
その中で、鮮明なカラーで浮かび上がってくる、2人の男女の押絵。
押絵の2人と同じように、俺の中の記憶も色褪せないものであればいいのに、と麦茶を飲み干し、少しの間、外の雨音を聞いていました。

あとがきにある、この作品誕生にいたる経路で、「(当時編集長だった)横溝正史君に催促されたが(あまりの出来の悪さに)旅先のトイレで破り捨てた」という話は何故か覚えていて、読後にちょっとニヤリ。内容を覚えとけよな←俺