花火と鈴

20年も前のことである。

季節はやはり夏で、祖母もまだ健在であった。
うだるような夏のある日で、夏休みの真っ最中でもあった。
裏の小さな森で油蝉がせわしなく、自分の寿命を知っているかのように鳴き続けていた。
抜けるような青空の昼間である。

涼しげにアスファルトが濡れている。
午前中に降った大雨のせいだったが、肌に感じる纏わり付くような暑さは、ねっとりとした膜を全身に張り付かせているように不快だった。
少しでも涼を取ろうと、縁側で棒つきアイスキャンデーをなめていると祖母がやってきた。
このアイスキャンデーは舐めていると舌の色が毒々しい色に変わるギミックで大半の小学生と、ごく少数の中学生に大人気であった。
私が手にしている、当時仲間内だけで流行していたその毒々しい色合いの氷菓子を一瞥すると、一言呟いた。
「遊びに来たね」
祖母のことを良く知る私はその言葉が何を意味するか一瞬で理解した。
"この世のものではないものがいる"
家の前のアスファルトの道に目を向け、何も見えないことを確認して、祖母を振り返った。
祖母は忙しそうに、部屋の奥の押入れをガサゴソとやりながら、ひとう頷いた。
瞬間、私の背後で生ぬるいとも冷ややかともつかない風がフワリと吹いて、微かに鈴の音が鳴った。
大勢の人が歩く気配が、する。後ろを振り向かずともそれがわかった。
蝉の声がいつの間にか消えている。
鈴の音が次第に大きくなり、通りをあるく気配が唱える、唸るような念仏も聞こえてきた。
慌しく動いていた祖母が、押入れの奥から小さな掌大の白いつるんとした石を取り出すのが見える。
そして、両手に持ったその石を厳かに畳の上に、落とした。
背後で何かが弾けるような音がして、気配が四方に散った。
思わず振り向くと、大きな花火のような模様が目に入って、一瞬で消えた。

「大雨のあとには恋しくなるんだろうねえ、人が」
祖母はふうと溜息をひとつついて白い石を拾うと、それをまた押入れに戻し、言った。

ミンミンという声がまた戻ってきて、私の手首を溶けたアイスキャンデーが一筋つたっていった。