無実の村

"やっぱり20歳までには何かを成し遂げたいよな"
そう思い立って、僕ら3人と1ロボ(対空ミサイル付)はヒマラヤを目指した。
19歳の夏休み、僕らはもうとうに学校なんて行ってはいなかったけれど、山々の青からグィーンと立ち上る入道雲がこれでもかとばかりに毎日目に付いたら、そりゃあもう十分にワクワクしたうえで、焦りさえも覚えるのだ。
毎日が夏休みであって、エブリデイな僕らだから。

今日も僕らはブラブラと集まり、行きつけの喫茶店でグウタラと空を眺めていた。
「俺たちの成し遂げたことってなんだろ」
空き地にペルシャ織を敷いただけの喫茶店で冷たいコーヒーを飲みながら唐突にロボが言った。
正確には、ロボの胸部にあたる部分の電光掲示板にズラズラと以上のような文言が流れていたのを皆が目で追っただけだけど、流れる無機質赤文字とは裏腹にその文章からは何か、電子とか因子とかからはかけ離れた人間味のような何かを感じた。そう、ロボ以外の全員が。
それから30分も僕らは、マスターであるペルシャ人を見つめては「あれは西のほうから来たんじゃないか」とか「いや、あのくるぶしのゴツゴツさはどうだ。あれは北のものに間違いない」とか「おばさんのスパッツにはなぜ紫が多いのか」とか、興味のないことを白々しく論じた。
皆が皆、その質問から逃げ出そうとしているのが丸わかりだった。それはほかのお客である300名のコック見習いでさえも同じで、ソワソワ、ムズムズとまだ30cmしかない自分のコック帽をいじりだしたりしてることからも明らかだった。
何べん言っても、コーヒーをコーヒと言うあのペルシャ人マスターでさえ、空き地に敷物という簡素な造りにしろ、お店を構えるということを成し遂げているのだ。
僕らとコックは焦った。いつにもなく柄にもなく。

「そうだ、ヒマラヤに行こう」
僕は半ばやけっぱち気味に、カップに残ったコーヒーを指の先につけ、半紙に書きなぐった。
実をいうと後半はコーヒーが足りなくなったから醤油をつけたがそんなことはお構いなしだ。

遠くの山をみると、入道雲がコックの帽子みたいに高く伸びていた。