近況

時に、その由来元よりも、それに酷似するものがオリジナルを陵駕することがままある。

「マナ様」

彼女に関して言えば、オリジナルよりもオリジナルらしい気がした。
"彼女"というくらいだから、あのバンドの本人様ではもちろんないのだが。

件のバンドの本人がどんな言葉を喋るかは知らないが、彼女の言葉を本人の顔で言わせたら物凄くシックリ来るだろう。


知り合いのその"マナ様"はどちらかというと、マナ様というよりハナマサ(食い放題)とかマナティといったほうがいいような見た目で始終、素晴らしい言動を繰り返していた。

彼女は本名をなんといったろうか?思い出せない。もしかしたら最初から自己紹介もしていなかったのかもしれない。

「満月だから帰ります」

飲みの席での突然のこのセリフで彼女は"オリジナルの座"を完全に奪い取った。

僕とは友人の友人という間柄だったから、さして近しい関係ではなかったが、幸運にもマナ様の出没する場所に割とよく居合わせる事が多かった。

それは、釣堀で1人糸を垂らしている彼女であったり、公園の鉄棒で斜め懸垂をする彼女であったりした。

そのたびに、何も言わずに通り過ぎる。

一回だけ彼女が気づいて(その時は喫茶店のショーケースを眺めていた)会釈したが、なんとなく無視した。

皆が驚いたのは、彼女に彼氏がいることだった。

その事実を知った皆が騒ぐ中、「24歳くらいだから当たり前だろう」と思ったが、とりあえず黙っていた。

「ドアを閉めるのがうまいから」

すごい馴れ初めである。

その言葉と、相手が20歳も離れた大工さんなのも皆を納得させた。

いつしか彼女は皆と音信普通になった。


母親が倒れたという報せを受けて、3年位前に実家へ戻った時があった。

幸い、母はたいしたことも無く、過労だった。回復したのをみて帰ることにした。
駅に足を向けると、喫茶店の前で見慣れた女性がショーケースを眺めていた。
確実にマナ様であった。

あちらも気づいたので、懐かしく会釈をしたら無視をされた。

彼女は服装も変わらずとても元気そうだった。
その手には小さな手が握られていた。カワイイ男の子だった。
僕の視線に気づいて、今度は照れくさそうに彼女は会釈を返した。

「もう"マナ様"とは呼べないなぁ」

そんな事を思いながら笑顔で無視をした。

空白の間に何があったかは僕は知らない。
だが僕らにとっての"マナ様"は価値観を少しだけこっち側に持ってきてくれたらしい。

この事はあの頃の友人には話していない。




「すげえ!もう人じゃないねこれ」
「いやーむしろこの世の物じゃない(冥界)」

トーストをほお張りながら、ブラウン管の中の栗山千明についてそんな事を言い合う。
泊めてくれた人の手作りであるところのスクランブルエッグが美味い。
懐かしい思いに浸りつつコーヒーを飲み、もう昼だということを認識する。
休日の昼前にグダグダできる幸せ。

何気なく外を見ると"確実に長引くぞ"と宣言してるかのような雨が。

とてつもなくリラックスできる部屋に未練を残し、次の目的地のさいたま新都心へ。

駅への道すがら
"傘を差すと片手しか使えないから"
という理由でズブ濡れになりながら笑顔でタバコを吸う友人を思い出し、ちょっと笑う。
必要のない人にはどんな世紀の発明もただのゴミなのか。

一泊の恩人と別れを告げ、さいたまへのルートを頭の中で反芻する。
赤羽ってどこだよ(乗換駅)。

格闘技が好きじゃなかったら"赤羽"という所は僕にとってはただの文字だ。そこが土地であってもただの穴のあいた場所でも関係ない。どうでもいいことだ。
もちろん"さいたま"も、他の土地も。
しかし今は、穴だったりすると非常に困る。


もし誰とも関わりを持たず外にも出ない人がいたら、彼の周りには何も存在しないことになるのだろうか?

そんなどうでもいいことを思いながら電車にゆられ、待ち合わせの1時間前に現地に到着。

警備員があくびをしているのを横目にみながら、ビルのトイレで用を足す。

便座に腰をかけ、"あの警備員にとってさいたま新都心はどんな街なのだろうか"と考える。

やっぱりどうでもいいことだ。
今しがた、ひねり落とした物と同じくらい。

それでも、ソレにしたってどんなにくだらない疑問だって"少し"も必要ないことでは無い。

少なくとも、自分にとっては。





うなぎが美味かったです
今まで食べた中で一番かもしれません。

お香を貰いました。ガネッシュ。甘い。
舞城も貰いました。煙と食い物とかかんとか。面白い。
変な看板と張り紙のパブ発見。
酔拳観ました。
PRIDE31を観にいきました。スゴイ。折れない心とはこういうものか。誰だかは言わないですが。

パンフレット買うのを忘れました。後悔しました。

そんな感じです。