雪VS砂糖

ボタンダウン巡査がシャマダラHIPHOPサーカス団の道化師から事情聴取した記録。


まさかあそこが禁止区域だなんて知らなかったんだ。オレ達はこの町に着たばっかりだったし、とても疲弊していた。なんてったって10日もあのボロ馬車にガタガタ揺られてきたんだからな。
馬車なんかなかったって?
ああ、馬車っていっても実際に幌を引いてるのは馬使いの山田君なんだ。馬を買う金も飼う金も無いからな、オレ達ときたら。
団長は「ダイエットだよ」といって毎回2食しか配給しねえし、それも朝はバナナ。夜はバナナの煮付けだ。どうかしてるぜ。オレ達は猿じゃないっての。
あのコーギーだってしょぼくれるさ。
コーギー?ああ、サーカス団で飼ってる猿のことさ。

団長の事はあんまり知らない。オレは団に入ってまだ2ヶ月なんだ。オレの家に突然団長がやってきてこういったのさ「あんた、ちょっと猿に似てるな」ってさ。
もちろん、朝の5時に突然やってきたフンドシ一丁の男にそんな事言われて黙ってるオレじゃないさ。
「なんだと!オレをあんな毛むくじゃらと一緒にするんじゃねえ!オレはもっとバナナが食えるぜ!」ってな。
そうしたら団長は付け髭を取り外してニヤリと笑ったね。そうしてこういった。
「ほう。ならばうちに来てその証拠を見せて貰おうじゃないか」
そう、オレはまんまと奴の罠にハマったってわけさ。
次の日からオレは道化師を始めたよ。まあやったことはないが、「顔を白くしてフルチンでヘラヘラしてればいいんだろ?」ってなくらいにしか思ってなかった。
その次の日にはバナナを食いながら、もう辞めたいと思ったね。道化師がこんなにも大変なんだとは思わなかった。やれ玉乗りだ、やれ玉乗り失敗だ、やれ熊に食われろ、それ熊を食え。
そりゃあもうハンパなかった。
でもオレは道化師をやめはしなかった。なんでだろうな、たぶんバナナが食いたかったんだと思う。それももうウンザリだけどな。

今朝のことだ。
オレはもうバナナを見るのも嫌だったから、今週配る予定になってた風船をひっつかんでテントを飛び出したんだ。
慌ててた。
テントを出て、ホッと一息ついてそこらへんの子供に風船を配り始めたんだな。そこで気づけば良かったんだが、今朝のオレはどうも浮かれていたらしい。
まるで風船みたいにね。

子供を押しのけてデッカイ男がオレの前に立ちはだかった。そいつはまるで山のようだったよ。
「ん。それをこっちに寄越せ」
風船は普通、子供にしかやらないルールなんだ。だが奴の目をみたらそんなルールはどうだってよくなっちまった。
あいつ、まるで子供のような目をしてた。わかるだろ?お巡りさんにもそんな時代があったはずさ。
だからオレは奴に風船を渡してやった、とびっきりの道化師スマイルでね。
その後にすっかりオレは気づいたんだ、オレがひっつかんで持ってきた風船が、マジック用の特別製だったってことをさ。
だってそれから1分もしないうちにフワフワ浮かびあがる風船と、風船の中で体育座りする奴を見ちまったんだから。



なんだか土曜日は空から白い物体がやたらと舞い降りて来てたみたいですがきっとアレが未確認飛行物体なんだと思います。
「地球が侵略されるのも時間のうちだ」などとブルブル震えながらカレーを食っていましたが、次の日にはもうなんだか面影が少し残ってるくらいで大したことねーな宇宙人もとか思ったような思わなかったような。

で、白いアイツらの東京征服は失敗に終わったみたいだなぁなどと一安心してたんですが、突如、実家から電話がかかってきまして「なんか木の上に積もった雪が落っこちてきてドアの前が塞がれたからちょっと来い」みたいなことを言われまして、「ウアー、千葉(僕の家だけ)は完全制圧された!」とやはりカレーを食い終わりつつブルブル震えていました。

で、面倒くせぇなぁなどとカレーを一緒に食いに行ったナマス氏の家でゴロゴロしてから深夜近くに実家に戻りまして、雪かきをしてきた次第でございます。
というか大したこと無かった。ドアの前あたりにちょっと大きめの雪だるまがあるくらい。
ちくしょう!そんなことくらいで呼びつけるなっての!
と憤慨しつつシャベルを動かしてそのまま秋葉原方面へ飛び立っていったのを西の空に見かけた方、それはきっと僕です。