昴
中島みゆきの「世情」をバックにムーディーキャンドルでライトアップされた体育館。幾人かの男性と初老の女性がパイプ椅子に座り壇上を見詰めている。
ギュギュ!ギュ!
壇上では(祖母がダイエーで購入した)ランニングシャツにタイトスパッツの青年が頭を軸にして何度か回転を試みるも失敗している。
「本当にできるんでしょうな!?」
「まさか!あの技はプロのダンサーだってそう簡単にできるものではないのですよ?」
「まったく素人が・・・こんな時間に・・・」
「シッ!先生に聞こえますよ」
「・・・・できるわ。あの子は(中古ファミコンのソフトを見る)目が違う」
ギュッ!バタン・・・ギュッ!ドターッ!
「ですが、もう2時間もああやって・・・まるで死にかけの・・・ええーとなんか小動物みたいなアレですよ」
「我々も明日早いんです(木こりだから)」
「そうですよ(木こりを監視するから)」
「・・・・」
「・・・先生」
「あ!」
倒れて荒く息をしていた壇上の青年がやにわに舞台袖の何かに気付き、急いでそれを引っ張りだしてくる。
「あ、あれは」
「・・・も、木人!」
「J・チェンの初期名作で御馴染みの!」
「やるわね・・・あの子」
ギュッ!ギュギュ!
木人を逆立ちさせ、勢い良く回転させる青年。
・・・バタン
しかし無常にも倒れる木人。
「やはり・・・」
「ダメ・・・か」
「待って!あれを!」
たまたま遊びにきていたカウボーイから縄を奪い取る青年。
泣き喚くカウボーイを尻目に木人に縄を巻きつけ勢い良く引くとコマの原理で回りだす。
ギュル!ギュル!
「い、1回転!2回転!」
「まだまだ回るぞ!」
「6回転!7回転!すごい!」
「10回転!11回転!」
3人「と、跳んだーー!」
キャンドルの明かりがフッと消え、暗転。
すぐさま画面に「ノッポさんが笑顔でピースサインをするラフスケッチ」が大写しになる。
バックでは体育教師の「お前ら何やってんだ!ビンタするからそこ並べ!」
という怒号と3人の「ええー!殴るんですか!?」という情けない声。
「世情」がフェードアウトするそばでまだまだ回る木人のギュルギュル言う音だけがこだまする。
(終劇)