歓喜の街

むかし、パトリックという名前のザリガニを飼っていた。飼うというにはおこがましいが、一応、祖母が謎の繊維を洗うバケツを拝借しベランダで餌をやったりしていた。名前は、米国で俳優業を営んでいるパトリックスウェイジさんから拝借した。青いバケツには他にも5、6匹ザリガニがワサめいていたが、名前を付けたのは一匹だけであった。1ヶ月もしないうちにパトリックと他のザリガニは区別がつかなくなって、のべつまくなしにパトリックと呼び掛けている自分がいた。夏も終わりに近づいたころ、バケツの中で蠢くものの正体を知った母にすべて捨てられた。次の夏、新たに捕まえたザリガニには名前はつけなかった。